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雪滑り

 流行りの歌と懐かしの歌が入り交じり、やがて遠くなっていく。
人を運ぶリフトは、ガタガタと古びた音を出す。


 一面に広がる雪化粧はとても美しいが、冷たくてどこか恐い世界だ。
先ほどまでにぎやかな話し声がしていたのに、今はひとりぼっちにされ、いつ落ちるかと不安な空中にいる。

 雪を楽しめと言わんばかりの音楽は、ロボットのようなにおいがする。
たとえ全ての人が滅んだとしても、こうして延々と流れているのかもしれない。嫌に響いているから嘘らしい。
 かと思えばリフトは機械の感じがしない。
この揺れと音は、数百の力持ちな人が引いてる気さえしてくる。
ロボットのように淡々と運んでくれれば、怯えることもないだろうに。


 下を覗いてみる。
熟練のスキーヤーがきれいな波模様を描いていく。
 その後ろには、転んで笑うボーダーだ。
あぁ。下には人がいる。ここも人の世界なのだ、そうだった。


 一層寒くなってきた。
あと数百メートル。もう少しで着く。
 そう思った瞬間、リフトがその場で揺れて止まった。
誰かがリフト降り場で転んでもしたのだろう。慣れないうちはそういうものだ。理解は容易い。
 そして先の方にもまた、人がいる証拠でもある。
 だが正直勘弁してほしい気持ちだ。

 ポケットの上からチョコレートの残りを確認し、背もたれに深く座るよう体勢を整えた。
何があるかわからない。リフトの停止が長時間であれば体力勝負だし、短時間でも貧血を起こして前のめりに落ちてしまうかもしれない。

 深刻に考えすぎなのだろう。自分でもそう思う。
リフトを作った人、点検運転をする人は信用していい存在だ。移動中寝たっていい。ここの人の技術と生真面目さを侮ってはいけないのだ。ついでに、至って健康だからこそここに来たことを、思い出すべきだった。
 それに、雪山、自然の方が余程脅威だ。規模の大きいトラブルがあり得る。雪崩が起きてしまったらと考えると、今の不安が馬鹿らしくなるほどだ。

 自分は自然の中のようでそうでない、穏やかな環境にいる自覚があり、それでむしろちょっとしたトラブルに怯えてしまうのかもしれない。自然に人は勝てないが、今の不安といえば、人に助けてもらえるような範囲だ。であれば要らぬ心配であるはず。
 もしや、今自分はさみしさでいっぱいなのではないだろうか。ひとりでなければ、悠々と待っていられたかもしれない。
あぁ早くにぎやかな人の群れに運んでほしい。


 願いが届いたのか、リフトが動き出した。動き出した反動で大きく揺れ、思わず安全バーにしがみついた。
大丈夫だ、動き出したのだ、動き出したからにはこの揺れで落ちるかもしれなかったという不安など大したことはない。


 リフト降り場に到着、無事転ぶこともなく抜け出した。
 先ほどまで見ていた景色と同じ銀世界だが、キラキラきらめいているようだった。所々で聞こえる話し声、ボードのセッティングの音、スキーヤーが通り抜ける音。さみしさが一気に吹き飛んだ。

 少し斜面の付いた先を見据え、トンと自分の背中を押すように一歩踏み出す。ザーっと、雪が擦れる音。
瞬間血が湧いた。これだ、これの為に来たのだと。
 久々の雪滑り。板から雪を吸って全身で飲み込む。雪を味わうのを待ちわびた。


 リフト移動の不安は忘れ去り、いざ。





[ 2017/02/21 00:58 ] 小話 | TB(-) | CM(-)